ヘナタトゥーの歴史は古く、アジアから中近東、アフリカまで、多くの地域で主に女性の装飾として様々なデザインとなって愛されつづけています。非常に大胆な発想のデザインが多く見られます。消えないタトゥーにもこの飛躍力は魅力的です。これをタトゥーに採用しない手はないと感じます。
中国、インドから中東圏を経て北アフリカまで広く高温乾燥地帯に自生するミゾハギ科の植物ヘナ(henna)、インド名メンディー(mehndi)の葉には、鮮やかな着色作用のあることが古来より広く知られ、それらの地域で主に女性達の文化としてテンポラリーなタトゥーや髪のカラーリングなど装飾素材として使用されてきました。
そこには多くのトライバルタトゥーの文化とまったく質を同じくする、デザインと呪術世界とのかかわりが見られ、ヘナの場合は使用者が女性であることから結婚、妊娠、出産にまつわる護符的役割のものとして施されることが多いようです。タトゥーとの違いは身体の新陳代謝の働きによって2~3週間で色がぬけるという点です。
古代エジプトの洞窟壁画に描かれた人物にはトライバルタトゥーを思わせる模様が皮膚上にあることが知られていますが、これに関してはヘナで身体を飾る風習が当時から存在していたことの証左であるとする説もあり、そうなると8千年以上もの歴史があるということになりますね。
実際にヘナとタトゥーが同じ地域に存在している場合、両者はデザインを共有しているケースが多く見られます。北アフリカのベルベル人(berber)、ヨーロッパから南アジアを広く流浪する民、ジプシー(gypsy)、ロマ(roma)、そしてインドの女性達。どちらが先にあったのか、あるいはどちらがどちらに影響を与えているのかという議論に関しては諸説入り乱れるところでもありますし、また地域によっても異なるところでしょう。ここで確実に言える事としては、ヘナとタトゥーという2つの身体装飾法はもともとセンス的に類似した視点で捉えられやすいということです。そうしたデザイン共有地域の典型としてインドを見てみましょう。
絢爛豪華なヘナ=メンディの大国であるインドは、同時にタトゥーの大国でもあります。マルコポーロ「東方見聞録」の記述から、インドのタトゥー文化はもともと東アジア方面から入って来た可能性も指摘されていますが、そのデザイン的な発展としては常に同時代のメンディと歩調を同じくしてきたようです。インドではどこの街角の文具店でも売っているメンディデザインのカタログ本がそのままタトゥーのデザインソースでもあるわけですね。
第二次世界大戦の終わりやイギリスからの独立の頃を境にタトゥー人口は徐々に減って来ているとのことですが、それでも女性の前腕内側のハスや幾何学模様などのちょっとしたタトゥーなどは今でもごく一般的に見る事が出来ます。そしてインドの様々な地域の人々を観察していると、ある一定の傾向が見えてきます。
これらの傾向はインド独特の言い回しでまとめるならばつまり、カースト(古来よりの身分制度)の高い人よりも低い人にタトゥーが多い、ということになります。インドは全人口の25%以上という、じつに日本の人口の2倍近い無数の少数部族を抱える部族大国でもあります。その多くは都市から離れた丘陵、山岳地帯に分布しているのですが、彼等はまたヒンズー教カーストでは最下層に位置づけられている人々でもあります。
彼等のタトゥー率はおおむね高いのですが、僕の見解としては、それらのうちの大半は、厳密な意味でのトライバルタトゥーだとは考えてはいません。本物のトライブが入れているからといって、必ずしもそれが真性のトライバルタトゥーであるとは限らないということです。メンディデザインとの共有性、他地域他部族タトゥーとの類似性、そして何よりも上述したカーストとタトゥーとの関係性を考えると、それらはもっとはるかに大きな括り、つまりインドという超巨大文化圏が古代より連綿と受け継いで来たファッションとしてまとめて捉えるほうが妥当という気がします。
本物のトライバルタトゥーも無数の部族達の中にはもちろんあります。そのごく1例としてオリッサ州(orissa)南西部のクティア.コンド族(kutia kondh)女性のフェイシャルタトゥーの画像を最後に載せておきましょう。結婚相手の決まった女性が、部族外部からの誘拐に遭わないようにするために入れるそうです。
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引用
著書:「traibal tattoo designs from the americas 」出版:mundurucu publishers
著書:「traibal tattoo design」出版:the pepin press
著書: 吉岡郁夫「いれずみ(文身)の人類学」出版:雄山閣
参考文献
著書:「THE WORLD OF TATTOO」Maaten Hesselt van Dinter著 KIT PUBLISHER
著書:「世界民族モノ図鑑」明石書店
著書:「EXPEDITION NAGA」 著者:peter van ham&jamie saul 出版:antique collectors, club
著書:「MAU MOKO The World of Maori Tattoo」Ngahuia Te Awekotuku with Linda Waimarie Nicora
著書:「縄文人の入墨」高山純, 講談社
著書:「TATTOO an anthropology」MAKIKO KUWAHARA, BERG
著書:「GRAFISMO INDIGENA」LUX VIDAL, Studio Nobel